
石垣空港から港まで車で約三十分、そこから高速フェリーに揺られて十五分。フェリーの後ろに引き上げられていく波が、いつもの東京を遠ざけていきます。竹富島に着くと、白砂の道と低いブーゲンビリアが出迎えてくれて、それだけで「ここは別の時間」と理解できました。
宿は集落の外れに、石垣に沿うように低く建っています。チェックイン前にお茶を一杯いただいて、案内されたヴィラには小さな庭と縁側、そして奥に水盤のように広がるプール。スタッフの方が「ここでは予定を作りすぎない方が、たぶん良い思い出になります」と笑って教えてくれて、その通りにしてみることにしました。
朝は六時に起きて、まだ誰もいないビーチを歩きました。波打ち際を裸足でゆっくり歩くだけなのに、半年分の疲れが砂と一緒に流れていく感じがするのです。九時に戻ると朝食のテーブルに、地のもので作られた小さな器がずらりと並んでいて、ひとつひとつの味が静かに体に入っていきました。
夕方はヴィラの縁側で本を読み、日が沈む頃に集落へ。水牛車がのんびり通る道沿いに、観光客向けではない小さな食堂があり、おばあがゆっくり八重山そばを出してくれます。「もうすぐ夜になるから、早く帰りなさいね」と言われたのが、なんだか優しくて泣きそうになりました。
三日目の夜は、客室付きのプライベートディナー。料理が運ばれてくる合間に、波の音と虫の音だけが残ります。普段なら音楽が欲しくなる時間ですが、この島の夜の静けさは、それ自体が一番のごちそうでした。
東京に戻った今でも、夕方が近づくと竹富の縁側のことを思い出します。何もしない時間を、罪悪感なく過ごせるようになったのは、この三日間のおかげだと思っています。
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